自閉症スペクトラムは、遺伝的な要因が複雑絡み合って発症する生まれつきの脳機能障害です。自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群などの名前で呼ばれており、LD や その他の併発が見受けられる場合もあります。
自閉症の特徴として、「人への関心が少ない」「人よりも物への執着が強い」「人と一緒に 行動することが苦手」「独自のこだわりがある」「ルーティンを好む」などが挙げられま す。
また、空気を読むことが苦手で表情から感情を読み取ることも苦手なので、人の話を聞かずに一方的に話したり、相手に合わせて話題を選ぶことが難しいです。
そんな困難を抱えている子に対し、放課後等デイサービスでは“ソーシャルスキルトレーニ ング(SST)”を支援に取り入れています。SST とはソーシャルスキルトレーニングの略 で、社会生活の中での振る舞い方、暗黙のルールなど学校ではなかなか教えてくれないような能力のトレーニングのことを指します。
その子の特性や情緒、環境などにも配慮し「出来ること」を増やし、集団生活の中で「そ の子らしく生きる」スキルを身につけることができるように行っています。
今回は、放デイに通っている自閉症のお子さんたちの苦手・課題としていること、苦手な 事への支援方法、SST の内容についてお話をしたいと思います。
Table of Contents
自閉症のお子さんが苦手・課題としていること
放デイに通っている自閉症、または自閉症傾向にあるお子さんの苦手・課題点について紹介します。
中学 2 年生の自閉症と WISC の検査で IQ 境界域に位置している A 君は、「自分の気持ちを 伝える」ことが苦手です。
自分の好きなもの興味あるものには高い集中力が発揮されますが、苦手・嫌いな物事に対 しては強い拒否感が出てしまいます。
嫌なことがあった時、目の前に苦手な課題が出た時に気持ちのコントールが上手くでき ず、職員が声を掛けても返答せず、そのまま 5 分以上机の下に潜ってしまいます。
調子が良いときは「やりたくない」と言う事ができますが、気持ちのコントールができなかったときに「自分の気持ちを相手に伝える」ことができないため、「自分の気持ちを相手に伝える」ことが課題となっています。
A 君への支援で工夫していること
自分の気持ちを上手く相手に伝えることができるように行っている支援方法が2つありま す。
1. 書いて文章で伝える・打って伝える
気持ちを伝える方法は言葉にすることだけではありません。“文字にして伝える”ことも十 分な伝え方の1つです。「書いて伝える」「PC や携帯で入力して伝える」など様々な方法 があります。気持ちのコントールができなくなった時には、放っておくのではなく「何が 嫌だった?」「どうしたかった?」「A 君の気持ちが分かれば、何か改善できる方法がある かもしれないから教えて」と声を掛け、その時に「言わなくてもいいよ。紙に書いたり、 携帯で入力して教えて」と伝えます。 少しずつ「自分に合った伝え方」で、自分の気持ちを伝えることができるように支援を行 っています。
詳しくは、「気持ちのコントールが苦手な子への指導」をご参照ください。
2.グループワークに参加!
私の居る放デイに通っているお子さんは全員グループワークに参加してもらっています が、A 君の他にも「気持ちを伝えることが苦手」なお子さんには特に参加してもらえるよ うに促しています。
ゲームを通して自然に人とのコミュニケーションを無理なく学ぶことができ、「こうしたらいいんじゃない?」「こうしたい!」など自分の思っていることを自然と伝える事ができます。
ゲームの内容によってはやりたがらない子もいますが、各々の子が得意とするゲームから少しずつ気持ちを伝えていく練習ができるように支援を行っています。
高校3年生 広汎性発達障害(自閉症スペクトラム)のB 君は、「会話のキャッチボール」 が苦手です。
自発的な発言は少なくはないですが、話しかけても「へー、そうですか」と会話が終わっ たり、質問とは全く別の内容が返ってくることがあります。また、自分の世界観が大きく、気持ちのやりとりが伝わりにくい場面があります。
対面で会話をしていても「目を見て話す」ことが難しく、プリントを見ながら話したり、 相手の斜め方向を見て話すことがあります。
視線を合わせることが苦手なのは特性のため、特に矯正はしていません。ですが、入試等の面接を行う場合は、“ネクタイの結び目を見ることが出来る” “首元や顔の周りを見ること が出来る”ように練習を行っています。
B 君への支援で工夫していること
会話のキャッチボールを上手にできるように支援している方法として、
1. 気持ちシートの記入!
詳しくは、「気持ちを文字にして表す」をご参照ください。
2.グループワークはチーム制で参加!
チーム制にすることで、チームメイトと「どうする?」「○○さんはどう思う?」などお 題が決まった中で会話ができます。
いつも同じ時間帯に通っている他生徒と行うので、慣れた環境で人と話すことができます。また、初めから生徒同士でするのではなく、ゲームの初めや、会話が上手く成り立っ ていないときには指導員が間に入って、「相手はどう伝えているよ」「○○さんはこう伝え たい」などと優しく声を掛けて少しずつ相手の話したことが理解できる、その場に合った 会話ができるように支援しています。
小学6年生 高機能自閉症の C 君は、「失敗や間違いに対するこだわりの強さ(完璧を求 めてしまうこと)」が課題です。 本人の中で「この問題を間違いなく解かないと」「(勝ち負けのゲームは)絶対に勝たない と」とこだわりがあり自分で自分を追い込んでしまいます。なので、問題が分からないと きや間違えた時、ゲームで負けた時に気持ちのコントロールが難しくなり、泣いたり唸り 声をあげてしまいます。
C 君への支援の方法や配慮
書いて気持ちを伝えられるようにするためのツールとして、気持ちシートを使用していま す。気持ちシートを通して伝わりやすい言い方などを練習していくことで、人への伝え方を学べるように支援を行っています。
色々な方法を知る!
色々な考え方を知ることで、こだわりの緩和ができるように支援を行っています。 例えば、グループワークで他児童とコミュニケーションを取る、担当する支援員を毎回別 の支援員に変えることで、様々な意見に触れることができます。
他にも、算数の解き方では「こんなやり方もあるよ」と伝え、どれがやりやすいか、分かりやすい自分で見つけることができるように伝えます。
1つの問題でも解き方は多数あることから、何事にもおいても色々な方法があることを提 示することで 1 つにこだわらないように支援を行っています。
SST として行っている支援内容
・気持ちを学ぶ点つなぎ
「相手の表情や仕草を見て気持ちを読む取ることが苦手な子」には、気持ちを学ぶ点つな ぎプリントを行っています。絵を見て、その絵に合った気持ちを探し線で結び「この時は こんな気持ち」と学んでいきます。
グループワークでも「こんな時はどんな気持ち?」というゲームを行うことが可能です。
・グループワークを行う
主にカードゲームやボードゲームを用いて行っているので児童にとっては遊びの感覚で、 プリントではできない実体験を通して楽しく学びの活動に取り組むことを目標に活動して います。 ゲームを通しての知識の習得や知覚・記憶能力の訓練はもちろんの事、人とのやり取りに よる社会性の向上やコミュニケーションなど活動によって様々な療育的意義が存在しま す。
行っているSSTのゲームは、「どっちが好き?」という質問型のゲームや、他己紹介、 犯人を当てるゲーム、自分の考えを述べるゲームなどコミュニケーションを多くとるゲー ムを主に行っています。
まとめ
自閉症のお子さんに限らず、自分の気持ちを相手に伝えたり、相手の気持ちを察することが苦手な人はたくさんいます。
ソーシャルスキル「相手の気持ちや状況を尊重しながら、 自分の気持ちや状況を上手に伝えられるスキル」を学ぶため、社会でのふるまいかた、暗黙のルールなど学校ではなかなか教えてくれないような社会で使う能力をソーシャルスキルトレーニングです。
トレーニング方法も一人一人その子に合ったやり方で、少しずつ「自分らしく生きる」ことができるよう、スキルを身につけていくことが大切です。