学習障害におけるつまずきについて【聞く・話す力部門】

聞くことと話すことのメカニズム、関係性


聞く・話す分野のつまずきというものは、学習障害の根底にあると考えられていて、そこから派
生して様々な学習が困難になると言われています。


では、そもそも「聞く」というのはどういうことなのでしょうか?人間は、耳に入ってきた音(振動)を、耳の中にある鼓膜がつかみ、そこで鼓膜が震えます。それを耳小骨が増幅させ、その後ろにある半規管、蝸牛とよばれる部分で電気信号(エネルギー)へと変換し、それが聴神経へと繋がり、感覚神経である大脳へ行くことで、音を判別しま
す。


ここまでいうと、正直何を言っているかわからないという方もいると思います。できるだけ簡単に言いますと、耳はマイクの役割を果たしていて、そのマイクで拾った音を翻訳する機能が人のには備わっているということでしょうか。

そして、「聞く」分野につまずきがある人と言うのは、その翻訳する機能が、不具合を起こしているようなものと考えられており、その不具合が生じた状態のものがそのまま大脳に伝わっているということになります。

(感覚神経等においてなんらかの障害が起こっていると言われていますが、現時点では研究中のようです)
それにより、聞く分野につまずきがある場合、例えば与えられた指示、教えられた勉強等が、話し手が話した情報通りに伝わっていないことが多いということが考えられます。


続いて「話す」ということについてのつまずきですが、「話す」ということは「聞く」力とすごく密接に関与しています。実は、言語の発達段階における話す言葉の単語というものは、聞くことによって得た情報をもとに作成されています。

つまり、聞いた情報に不具合があった場合には、その不具合と同じように言葉も発せられるということです。上記の聞く力についてのつまずきで、翻訳機に不具合が生じ、そのまま大脳に伝わっていると記しましたが、その大脳に伝わった情報が保管され、言葉を発するときにその保管されたものを出すことによって発せられることとなるのです。

そこで話すという部分においてもつまずきが発生してきてしまいます。また、人は話をするときに、単語や文章を選択しています。そして数ある単語の中からその場で必要な語句を選んで言葉を発するのです。

つまずきがある子は、その選択がうまくできず、聞き手が混乱してしまうような単語を発したり、文章の辻褄が合わなかったりするのです。

聞く、話すことについてのつまずきの具体例


聞くこと、話すことについてのそれぞれの具体例を実際に挙げていきます。

「聞くこと」

・テレビをテビレなど、単語の音の並びを間違って覚える。(話すことのつまずきにも両立す 
  る)
・1対1の場面でも口頭の指示がわからない、もしくは内容に戸惑っている。
・集団の場面において指示が伝わらない
・「ひ」と「し」など、音の発音が似ている文字をごちゃまぜにしてしまう。
・新しい言葉をなかなか覚えられない。
・聞いた事をすぐに忘れてしまう。
・冗談や比喩をその言葉通りに捉えてしまう。

「話すこと」

・質問に対し、文章ではなく単語でのみ答えてしまう。
・言いたい内容とは違う単語を使う
・まとまった内容が伝えられない。
・すぐに「わからない」と言い、黙る
・話題が転々とす
・思いついたことをすぐに口にする。
・自分ばかり一方的に話してしまう。
・場面に応じた話し方ができない(敬語等)
・質問に対し違う話題で返す。またはその場の話とは違う話題で会話をしてしまう。
・独り言を言ってしまう。
となります。


聞く、話すことにつまずきがある子どもへの支援法


 『環境面の配慮』

「聞く」

・雑音への配慮

・廊下側、窓側の席を避ける

・運動場、体育館、多目的室など広い場所では、重要な内容についてはあらかじめ文字で示したもの(ボード・プリントなど)を準備しておく。
・遠足など広くて多人数の前で話を聞かなければならないときには、前のほうに来てもらったり、補助的な役割をする大人(TTなど)がメモを書いて渡す
・教員の話し方の配慮、工夫
・発音を明確にするように心がける
・指示をした後、子供に復唱してもらったり、確認をとったりする。
・指示や説明は具体的に視覚的な手がかりを使いながら話す。
・困難のある子供のそばで指示をわかりやすく、繰り返す。
・注意をひきつけてから話し始める(子供が別のことに気を惹かれているときに話をしない)

「話す」


   ・話しやすい環境を作る
    →黒板に5W1Hのカード等を提示して、それに沿って話すことを意識させる。
   ・子供の失敗への対応
    子供の話がまとまらず喋りすぎてしまう時には、指導者が子供の伝えたい内容を5W1H
    に沿って整理して繰り返し、その内容を確認する。
   ・途中で黙ってしまう、立ち上がっても話せないような子には、指導者が子供の伝えたい
    内容を整理して繰り返す。(その際も5W1Hを意識する)
   ・発言中に急かすようなことをしない

『文章構造の理解』

・文章構造の理解について

文の構造を教えるために、外国語として学ぶ日本語学習の教材(外国人が日本語を学ぶもの)を活用することが有効です。

これにより、文の構造を一から知ることができます。文法の用語については、国語の学習よりも英語の授業の中で触れることが多い(主語、動詞、代名詞といったもの)ですがそれらの用語が理解できずに、授業の説明もほとんどわからないということが挙げられます。

中学生以上となるとそれがそのままテストに直結し、テストの結果でのみ成績が判断されてしまいます。そのため、個別指導の機会に学習のどのプロセスでつまずいているかを考え、整理してあげることが大事となってきます。

『コミュニケーション能力の向上』

・幼児期


 ①ミラリング→子供の行動をそのまま真似する。
 ②モニタリング→子供の音声や言葉をそのまま真似する。
 ③パラレル・トーク→子供の行動や気持ちを言語化する。
 ④セルフ・トーク→自分自身の行動や気持ちを言語化する。
 ⑤リフレクティング→子供の発音や文法の間違いを正しく言い直して聞かせる。
 ⑥エキスパンション→言葉の意味や文法を広げて返す。
 ⑦モデリング→子供に会話のモデルを示す。

といった7つの手法を用いることで、子供に「理解してもらえた」という自信と言葉の使い方を教えていくと良いと思います。

・小学校低学年

小学校に入ってからは、話し合いのルールを設け、
①手を挙げて名前を呼ばれた人が発表できる。
②誰かが話している間に割り込まない。
③多数決で決まったことには従う。

などの約束を教えて、そのルールを子供たちが見て意識できるように黒板等に書きながら、実際に話し合いをして練習すると良いでしょう。

その際、「私は~と思います」、「○○さんの意見に賛成(反対)です」といった意見の言い方についても黒板に貼るなどしていつも参考にでき覚提示しておくと良いでしょう。

・小学校高学年以上

高学年になると、会話の練習を取り入れますが、その中で自分はできていると思っている場合も多いため、他者からどのように見えているかということを知らせるためにビデオを使ってチェックすることが有効であります。

会話で教えていく事柄としては
・体を話し相手に向けて聞く。
・視線を相手に向ける。
・相槌を打ちながら聞く。
・わからないことは質問する。
・話すときは聞く人を見ながら話す。
・質問されたことに答える。
・今の話題について関係のあることを言う。
・少人数の時には相手との距離を考えて立つ。
・声の大きさ、表情にも気をつける。

といった事柄を子供の状態に応じて選んで目標を立てて練習すると良いでしょう。

学習障害を持つ子は、他者の視点に立つことが難しく、自分がどう思われているか、人がどう思っているかといったことがわからないという「心の理論の遅れ」のために会話でも失敗していることが多いです。

指導員も「これくらいわかっているだろう」と思わず、どう応答することが適切なのか教え、言葉の意味を教えていく必要があります。

併せて、程度や様子を表す副詞(「しっかりと」「そっと」など)や形容詞の意味、気持ちを表す言葉の語彙を増やしていく努力も意味理解の悪さからくる誤解を防ぐ手立てとなります。

以上が、聞く、話す部門についてのつまずきとその支援方法です。

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